ヨウ&カズ☆™のたまり場

ヨウカズの野郎がぐだぐだと替え歌歌詞を公開したり解説したりたむろしてたりするブログです。ブログじゃねえ。tkブログってなんだろうね((殴

ヨウカズのオリキャラさんち 「二人目・公害二世さん」 その1

二人目:公害二世さん 


街の近所の製鉄工場から、有害物資が流れていた。 
それが明らかになったのは、一人の妊婦が異常な症状を出したからだという。 
その奥さんから産まれた赤ん坊は、母の血にながれる害を受け継いでいた。 

生まれつき病弱で、生まれつき持病があって、何度も余命宣告を受けては生きて、 
それでも彼はよく笑っていた。 

「いつ死んでも困らないように生きてますから」

1・おじちゃん 


畳部屋しかない、小さなアパートの一室に、その赤ん坊の成長した体があった。 
部屋はこれといって片付けられている様子はなく、白い布のかかったキャンバス、端に追いやった絵の具箱やパレット、後はクローゼットと小さな箪笥…… 

それらに囲まれているのは敷布団一式。 
その子は、そこでまだ寝息を立てていた。 
折角の眠りを邪魔するかのように、廊下が子供の声と足音で騒がしくなる。 
子供達はこの子の部屋の前で留まると、古い戸をばんばん叩いて鳴らした。 

「…さーん、おーじさーん!!」 

薄い戸が振動でガタガタと揺れ、その音で布団がうごめく。 

「ん、……んん~? はぁー……い」 

布団の暗い隙間から、痛んだ黒髪が顔を出した。 
その髪はボサボサで所々枝毛があり、自分でやったのか、首の上でバッサリと切り揃えてある。 
寝起きでまだ焦点の定まらない目を擦り、手をついて体を起こすと、叩かれている戸がぎしぎしと軋んでいた。 

「……はぁー、」 

彼は仕方ないな、と言うように柔らかく微笑むと、 
はだけた寝巻きの帯と襟を直すと、壁に手をついて立ち上がる。 

「ふぅ」 

男性にしては細腕で骨ばっており、いかにも頼りない体の彼は、一足歩いては息をつき、目線の先の引き戸を引き…… 

「あっ――」 

途端、体から棒が抜けたようにふっと崩れた。 
額に固い木の衝撃が走り、起き上がれないでうつ伏せで居ると、頭上から子供の声がする。 

「うわー、死んだっ」 
「ばか、この人から新聞代貰ってないだろ」 
「おじちゃーん、平気……? うわっ!?」 

そして数秒の沈黙の後、子供達はドタドタと廊下を走り去って行く。 
額を床に打ち付けた彼を残して。 

「うう、ん…… え、……あれ?」 

手をついて半身を起こすと、廊下に誰も居ないことに首をかしげる。 

なんだったのでしょう? 

疑問に思いつつ立ち上がろうとした時、額に生暖かさを感じ、手を当てる。 
その感触はよく知っているものであった。 

「……、あぁ……」 

納得して手を引き剥がすと、チクリと出来立ての傷が痛んだ。 

小さいお手伝いさんには怖いでしょうね、これは。 

そう思うと微笑ましくなって、少し口角を上げる。 
「おじちゃん」にしては随分と若々しい姿であった。

 

2・個展 


「母は居ないんです」 

カメラのフラッシュが目を閉ざさせる。 
なんということだろうか、私はコンクールの副賞として、個展を開かせてもらったのだ。 
今日ばかりはと銭湯に行き、持ってる中で一等良い晴れ着に袖を通して。 
このようなインタビュー的なものは、学生時代にも何度か受けた。 
コンクールの度に地味で病弱な私が目立つものだから、良く思われはしなかったろう。 

美術系の学校に進んでからは、特にそうでしたっけ。 

学生時代の、ピカソの再来と唄われた絵。 
この個展は、私の「悲劇の十代」で飾られた記事を書かれるのだろう。 
まあ世間というものは、芸術家と悲劇を結びつけたがるものなのだろう。 
ベートーヴェンにしろ、石田徹也にしろ、そうなのだ。 

かといって私は…… 

質疑応答中にむせかえり、咳き込む。 
口を押さえたまま「ちょっと失礼します」と、にこにこしながら中断してもらう。 

私は…… 

控え室のソファーに深く腰掛けて、口元をティッシュで拭き取る。 
最近ますます元気な持病のせいだ。 
小さな赤い染みを見つめる。 
軽い溜め息と同時に、微笑みが溢れる。 
あと、描けるのは何枚だろう? 

「……やっぱりさぁ、そろそろヤバイんじゃない? 安さん」 

ティッシュを取ろうとした手が止まる。 
個室の外、廊下で、誰か達が私の話をしているようだ。 
耳を塞ぐ理由は無いから、喉を触りながら聞いてみる。 

「とうとうカメラの前で吐血してたよなぁ」 
「何で病院行かないのあの人? まだ新人だけど……いい家の子だし、暮らしは悪くないんじゃない?」 
「そういやあの体で一人暮らしだろ? 親父さんはどうなんだろ」 

勝手な人達だ。 
反射的に微笑みつつ、ティッシュを手に取る。 

「案外縁切りしてたりして」 

次に廊下で起こる談笑。 
下手なジョークだと笑っている。 
仕送りとかしてもらってるのだろう、と。 
じゃなきゃあ生きてるものか、と。 
その声は段々ととおのいていく。 

「てゆうか、身体削って描いてるのと一緒じゃん」 

最後になんとか聞き取れたのは、それ。 

「一番正解に近いですよ」 

ぽつりと呟いた自らの言葉は、私の微笑みを一層輝かせたことだろう。

 

3・余命三か月の夫の花嫁 

「明日冷たくなっててもおかしくないんですよー?」 

って何度も言うのに、 

「きっと後悔しますもの!」 

って引かなかった、いとしい人。 

最終的に、小さな小さな式をあげて、一夏を二人でほのぼの暮らしたんです 

いつもお寝坊さんなあなたとの日々は、とても儚く愛らしいものでした 

でもあの日、こんな話をしました。 

「私の余命まで、あと2週間ですねえ」 
「そうですねえ」 
「苦しんでくれないんですか?」 
「まさか。 想像するだけで苦しいですよ」 
「…… 解っていることとはいえ、貴方を残すのは心苦しいです」 
「あ、そうだっ! どっちが先でも苦しいなら、うちが先に死にますよ!」 
「ええ?」 
「そしたらうち、旦那様を空から見守れます。 それを思えば……天でも苦しくありませんで」 

そんな話を笑ってしたのです。 
彼女は別に狂っている訳でもなく、ただ純粋に、本気で言っていたのでしょう。 
でもそれは、それくらいの想いでいるということが本気であるだけで、本当にそうはなりません。 
実際私は予告された日、いつも以上に体調が悪かったのです。 
横になっていても座っていても呼吸がままならず、心地悪い汗がどっと出ていました。 
午後になっても熱は下がらず、 
「ああ、本当に逝くんだな」 
そう思っていたのです。 

だからそんな手紙が置かれていたことにも、気づかなかったんです。 

「ごめんなさい。 

何やかんや言うてもうち、旦那様が生きてない世界を面白いとは到底思えないんです。 

だからこうしたら、うち旦那様の記憶に行き続けられるのかなぁって…… 

へへ、ごめんなさい…… 

でも 旦那様の冷たくなってるの、ちゃんと見れる自信がないんです」 

貴方が買い物から帰ってこないことにも、翌日ようやく気付いたのです。 

本当になるとは思いませんでした。 
でも恐ろしいことに、私は深い悲しみと同時に、安心しちゃったんです。 
貴女が先で良かったと。 

私は生い先短いから、この苦しい時間も短くて済む。 
貴女だったらまだまだ生きねばなりません。 
絶つことも出来るでしょうが、私なら、想う人が居ない世界で一人絶つのは空しいものがあります。 
私なら、そこまで思い詰める前にお迎えがくるでしょう。 
(そう思い続けて、しぶとく生きてしまっているのですが) 

私と千菜世(ちなせ)は、それほどお互いを想った夫婦だと、自負できます