公害二世さん もう一つの真実的なの 「余命三カ月の夫の花嫁」
どうせ幸せは長く続きはしないのに。
私はきっとおいてってしまうのに。
貴女は私を、「だんな様」と呼びたがった。
私が亡くなったら誰が悲しむか、よく分かっているからこそ、貴女の前から居なくなってしまいたかった。
でも貴女はいつも隣に居たから。
私と貴女は仲睦まじい夫婦になった。
仲が良すぎる程に良い夫婦だった。
それ故におかしくなっていたのかもしれない。
3ヶ月が近付く頃、私はほぼ寝たきりの毎日が続きました。
それでも比較的体調の良い日には、近場の八百屋に一緒に買い物へ行き、ちょっと寄り道する程度のデートをしていたのです。
その日も、ちょっと寄り道をしていました。
その公園はちょっと高いところにあり、手すりから眼下を見下ろせば、深い森が広がっているのです。
私達はベンチに腰掛けて談笑していました。
「……菜乃子」
「なんです? だんな様」
「……私はきっと、貴女を置いていくでしょう。 残った貴女は、私が居なくて……毎日、苦しいことになるんじゃないですか?」
「…… 今更そんな、分かりきってること言いなさるの? ふふ……そりゃ、胸がきゅーーっとなりっぱなしになりますよ!」
彼女はそういって立ち上がります。
少し不満そうに微笑んで続けます。
「そっからの長い人生、だんな様無しで生きるんですよ? 記憶にはいらっしゃるのに、目の前にはいらっしゃらないんですよ?」
それを聞いて私は少し、彼女を一人にすることが恐ろしくなりました。
最悪の可能性すら起こしそうな程、私達はお互いが好きでしたから。
でも、すぐにその不安はなくなりました。
「って…… もー、そんな顔せんといてください! だんな様のいないとこで一人で死んでも、苦しいし悲しいだけやないですか!」
「あ、はぁ……。 それもそうですね、私だってそう思います」
そうして私達はお互い笑い合いました。 彼女は私の手を引いて、手すりに駆け寄って夕日を見せました。
二人でそれを眺めながら、私はききそびれそうになっていた質問を口にしました。
「なんで、私の妻になったのですか?」
それは聞くに聞きにくかったことでしたが、彼女はそんなことか、と言うようにあっさり答えました。
「好きになったからに決まってるやないですか」
シンプルで、なんと分かりやすい答えでしょうか。
「……ねぇ、だんな様。 さっきの話、…… 逆だったら、上手くまとまると思いません?」
「逆、ですか?」
私は最初意味が分からず、ただ首をかしげました。
でもあまりいい気分ではありません、まぁきっと体調のせいでしょう、そう思っていたのです。
「そーです。 だって……」
彼女は手すりに立って微笑むのです。
「だんな様の方が苦しい期間短いじゃないですか」
照れ臭そうに微笑むのです。
「そしたらうち、だんな様とまたすぐ会えますし……」
得意気に微笑むのです。
「あ、でも怖いんで……だんな様っ! 手伝ってくれへんですか?」
私はその日、彼女が買ってくれた下駄の片方を、眼下の森に無くしたのです。
不思議と涙は出てこないもので、情けないことに、安心感なんてものがあったのです。
ああ、彼女を最後に見た顔が、笑顔で良かったと、安心していたのです。
ですが私は息出来ない程胸を痛くして、体を引きずって家に帰ったのです。
3ヶ月を越え、私の体調はまた頭痛に安定してきちゃったのです。
余命宣告は幾度と受けてきていて、あぁまたかと言えばそうなのですが、腹水と尋常じゃない体調の悪さを感じれば、いつものとは違うと思うでしょう?
でもまあ自ら絶とうなんて馬鹿なことはしませんし、30もいかずに逝くことは、わかってる気がするのです。
だから私は、彼女を愛し続けたいと思うのです。
繰り返すようですが、私と彼女はそれほどまでにお互いが好きだったのです。
<終>
心中じゃないのは、奥さんは誰かに自分を覚えていてほしかったからです。
だんな様が泣いてる理由は、幸福なのと、何時か近いうちにおいていってしまう悔しさ、それを知っていて結婚したがった奥さんからです(
静かに狂気的な夫婦なんだよねー